エストニアとリモートワークについて私が知っている二、三の事柄

エストニアと開発をしていたら、突如オフィスを失い、リモートワークになったCTOの日々のメモです。

「幸福な場所」行きつけの店

東京に住んでいた頃の僕の「行きつけの店」というのは本屋とレコード屋と映画館とに限られていて、映画館について書き出すとキリがないのでやめておくとしても、新宿に行けば紀伊國屋でありHMVであり、渋谷に行けば今はもう服屋か何かに変わったWAVEであり大盛堂書店やパルコブックセンターであって、それが早稲田にせよ六本木にせよどこであってもそれらの場所と店構えだけは今でも明確に覚えている。
大阪に転勤になって偶に出張やら旅行やらで「上京」した時にでも真っ先に行くのはそれらの店であって、そうなると僕の中での本屋やレコード屋や映画館というのは何やら宗教的とも言っていいようなサンクチュアリを形作っているような気がする。
そんなどこかノスタルジーめいた話はこの辺りにしておくとしても、学生を卒業した頃から少しづつ増えてきている行きつけの店に「飲み屋」というものがある。もっともその殆どが現在住んでいる関西圏に集中しているし、行きつけと言っても半年に一度ぐらいしか行かない店もあるが、今日はそんな話をしてみたい。
まずは神戸・三宮にあるAという店で、ここはイタリアン・テイストのパスタが売りの店である。内装が木とコルクの肌合いで統一されていることなど本当はどうでもよくて、ここのパスタは本当に旨い。僕ぐらいの年齢だとパスタというよりスパゲティと言った方がぴったり来るのだけれど、絶妙のあつあつで出てくるスパゲティにチーズをその場で削ってもらって食べるのだが、僕は未だにこの店より旨いスパゲティに出会ったことがない。とにかく温度が絶妙であって、ここのスパゲティを一度食べたら最後「あつあつでないスパゲティなどスパゲティではない」という固く信じてしまうことなどこれもどうでもよくて、夕方ぐらいから麦酒やジンライムなどちびちび飲んでいて酒飲みなら誰しも知っている「何かまたお腹が空いてきたな、」という午後10時ぐらいに食べると涙が出るほどおいしい。
「何かまたお腹が空いてきたな、」で旨いお茶漬けを出す店と言えば、大阪・茨木にあるMという店で、やたら口数の多い店長のオヤジさんが絶対の自信を込めて出してくる自家製梅ぼしが入った茶漬けも僕が今まで食べた茶漬けの中でもっとも旨い。何かダシを仕込んであるようなのだが、そのあたりについて聞くと「裏の川に浸して...、」などとくだらない冗談を言うのだけやめてくれれば毎月にでも通おうと思える店である。
日本酒がおいしい店と言えば、大阪・難波のQという店に勝る店はない。旨いお酒と言えば金を出せば飲めると思っている人もいるだろうが、大吟醸だろうが越の何とやらだろうが保存状態と温度に左右されるものであって、居酒屋で大吟醸なりの高いものを飲んで日本酒がおいしいとか不味いなどと思って欲しくないのだが、それも時と場合によるのであって、昔淡路島に泳ぎに行った帰りに明石で飲んだ越の寒梅は確かに旨かった。あるいは東京の店も捨てたものではなくて、東京・早稲田にあるDという店はお酒の種類も多く、学生街でありながらうるさい学生も少なくて比較的落ち着いて飲める。
料理がおいしい店に戻ると、やはり大阪・茨木にあるBという店は昔京都のホテルでシェフ修行をやっていたマスターが作った店で、フレンチ主体の創作料理とでも言える品を出してくれる。ここの店も「料理は温度だ!」と言いたくなる絶妙の温度の料理の数々、どこで仕入れたのかひんやりパリっとしたレタスに熱い熱い卵とベーコンなどがかけられた特製サラダ、これにさすがフレンチ出身とうならせる食欲そそる酸味のドレッシングがかけられて、おすすめの一品。
最後にお奨めの店は神戸・三宮のKというバーで、靴を脱いだ足をゆったりと伸ばせるカウンター、大きめのソファースタイルのイスと、最近結婚されて幸せ一杯のマスターと音楽や映画を語り合える、まさに「行きつけ」に相応しい店。マスター曰く「30代の吹き溜まり」を目指していると冗談まじりに話すのだが、落ち着きやリラックスというものが倦怠感とは全く関係がなく、あるべき場所にあるべきものがあり、自分の気にさわらないものに囲まれていることが本当の落ち着きを生むことを特製のジンライムを飲みながら知ることができる。

この話、書いていても楽しいのでさらに続けることにして、