エストニアとリモートワークについて私が知っている二、三の事柄

エストニアと開発をしていたら、突如オフィスを失い、リモートワークになったCTOの日々のメモです。

「憂鬱な楽園」

「サラリーマン」なるものを辞めて、もう3ヶ月にもなるのです。

学生の夏休みだって「3ヶ月」もあるわけではないし、何もしなくたってバイトや何やらで時は過ぎていきます。だから、「完全に何もしない時間」っていうのはもしかして僕にとって初めてなのかもしれません。

以前、「会社を辞めての心構えを書きます」って言ってました。何が必要か。

(1)規則正しい生活、適度な運動をする生活
(2)「強く」あるための様々なトレーニング---<奥ゆかしい>未来に向かって

(1)は言うまでもなし。だいたい、会社であれ何であれ、急に環境が変わるというのは(それが今のようなラクチン楽園生活になるのであれ)、心と体にとってはストレスのようです。だから、そこから来る体調の不良を未然に防ぐ。

んでもって、(2)が今回の眼目です。
「サラリーマン」を辞めて分かったのですが、僕は「会社」というものに対して、いい意味でも悪い意味でも守られていたんだと思うんです。「そんなことないよ」とは思っていたのですが、いざ実際に辞めてみると、「学生」でも「サラリーマン」でも「浮浪者」でもない「裸の自分」っていうのは、なかなか恐ろしくも面白くもあるんですね。

具体的には「忙しいから」と横にやっておいた「人生の諸問題」とやらをやっぱりひしひしと感じます。自分がもっている弱さ、他人と抱えている問題、今の社会のこと、そんなことをあまりにも明敏に感じてしまいます。
会社の出張で行った時には全くそんなことはなかったのに、先月、遊びで東京に行ったら、ドトールでお茶を飲んでいるだけで「あまりの雰囲気のキツさ」に文字通り、気分が悪くなったことすらあります。
例えば、数年前には絶対いなかったような「中高年の新入社員」の方が若者のバイトに混じって珈琲を作っていたりすると、かなり明敏に不況の「影響」なるものを<感じて>しまうんですね。
多分、僕が「現役の会社員」だったら、「大変だなぁ」ということですませる「バリア」を自分が持つことができるんだと思うんです。
勿論、「世界」に対する感受性が高まっているのかもしれなくて、僕個人の資質も関係しているにせよ、これはこれで「いいこと」って思います。ただし、今の時代の「大変な部分」にあっという間に「伝染」しないだけの「強さ」を各自でちょっとづつ持つことが必要な気がします。

4月以来、僕は「会社社会」について、ずっと批判的に書いてきました。「嫌なら辞めちゃえ、そんなトコ!」です。
ただ、僕は全ての人が「ぷー太郎」になるようなアナーキーな社会がいいとは思っていません。「会社社会=人生」みたいな変なこだわりは捨ててみよう。あるいはそう思ってなくても、僕が上に書いたようなコトはあるんだよ、ってことをささやかながら呟いてきたわけです。

<不況>はまだまだ長引くでしょう。嫌な事件もやっぱり出てきています。そんな「イケてない時代」にこれから生きる僕らがまず考えるべきことは、「イケテる!」-「イケてない!」というような頑なな発想をとりあえず横に置いておくことだと思います。

例えば、不況下では、残業賃金カット(事実上の不払い労働)、残業するなといいながらひとりあたりの仕事は増えるという「ダブルバインド(板挟み!)」状態、など労働条件はふつうキツくなります。
その時に、「俺はイケてないなぁ」と考えるときっとつらくなる。
あるいは、家族を抱えて失業したとして、「これじゃ、イケないなぁ」と考えるとキツくなる。
そういう風には考えないことです。「これを機会に、今までだってキツかった<自分の生活>をもう少し風通しよくするんだ」と考える方がずっと健康です。

僕がすごいなぁと思うのは、これだけの不況下にあっても「バブルは良かった。高度経済成長はよかった。ああいう時代に戻りたい」などという人がとても少ないことです。
あの時代、確かに日本は「イケイケ」でしたけど、あれはあの時代であって、戻るのはちょっとね、というみなさんの真っ当なセンスだけが「風通しのいい」考え方なんだと思います。

今、これを読んでくださる人はそれぞれの「時代」は違うものの、「バブル」と「未曾有の大不況」という「2つの時代」を目撃しました。
戦争ほどではないけれど、この間、いろいろな価値観がめまぐるしく交代していったのを僕らは見ています。そんな僕らが誇れるのは、その両方を見据えた上の「複眼的視点」です。僕らには目が2つ付いている。その「2つの目ん玉」の「ずれ」が僕らに「物事の奥行き」を見せています。
その目ん玉がたくさん集まれば、さらに精度の高い、位置把握ができることでしょう。
こんなイケてない時代に、先に先にと焦ることはない。僕らはまだこの「憂鬱な楽園」がどこに位置するのかすら見定めていない。

まずは楽しく。そして、みんなで「レーダー」を張りましょう。お互いの位置確認をしながら、この「楽園の憂鬱」を奥ゆかしくも探っていけば、そのうち何とかなります。

当喫茶店は、8月は開店休業状態になりますが、9月からはまた新しい人も迎え、さらに精度の高い「位置測定」を続けたいと思っています。
あなたのおしゃべりをいつでも待っています。

あなたと僕の「ずれ」こそが、この世界に奥行きを作っているのだから。